海外ロースクール(LLM)留学をしようとする人が英語関係で一番最初に突き当たるはずの分かれ道。それは…
です。
アメリカの大学を受けるならTOEFLでいいじゃん、とか、IELTSの方が簡単らしいからそうしよう、とか、そんな単純な問題ではないのです、これは。対策する試験を初手で間違えると、その後の方向修正で(財政的・精神的に)莫大なコストを支払うことになるので、気をつけましょう。
この記事では、この皆が頭を悩ますべき難問に、終止符を打ちます。
結論
私がTOEFL(新旧両形式)とIELTSを両方受けた結果導いた、個人的な結論は以下のとおりです。
(1) HarvardかStanfordを受験校に入れる人、または(2) Chicagoが第一志望の人は、TOEFL。
(3) それ以外の人は、おとなしくIELTS!
なおこの結論は、LLM受験生の純ジャパがTOEFLとIELTSのどちらか片方だけを選択するケースを前提にしています。
TOEFLとIELTSの難易度の比較
まず、どちらの試験が「簡単」なのか比較したいと思います。
ネット上の記事でよく、
日本人は IELTS の方が点数がとりやすいよ!
という記事を見かけますが、これは2026年1月のTOEFLの形式変更でかなり状況が変わりました。
たしかに旧形式のTOEFLは、Readingのみに特化した日本の英語教育を受けてきた純ジャパの精神を打ちのめさんとす異常な殺傷能力を誇っていたのですが、現在は以下のような変貌をとげました(Listeningに関しては大きな変化なし)。
| 旧形式(~2026年1月) | 新形式(2026年1月〜) | |
|---|---|---|
| スコア | 0〜120点 | 1 〜 6 (0.5刻みのバンドスコア) |
| 所用時間 | 約 2 時間 | 約 1 時間 |
| Reading | 長文2つの読解問題 | TOEICに近い短文問題 + 長文 |
| Speaking | 2分程度の講義等を聞いた上でそれを要約する、難関の統合問題(Integrated Tasks)あり | 短文を聞いた上でそれを復唱するパートと、普通のインタビューパート |
| Writing | 学問的な文章を読み、かつ講義を聞いた上で、それについての意見等を述べる地獄の統合問題(Integrated Tasks)あり | 英文メールの作成と、普通のエッセイ課題のみ |
このような形式変更後は、個人的にはTOEFLとIELTSの問題の間に、大きな難易度の差は感じませんでした。あえて言うのであれば、Speakingは若干IELTSの方が簡単で、Writingは若干TOEFLの方が簡単なように私は感じましたが(後述)、総合的にいえば同じようなレベル感です。
ちなみに形式変更前は、Integrated Tasksのせいで、スコアメイキングの難易度も受験の精神的な疲労感もTOEFLが段違いに上でした。
米国の主要大学LLMの要求スコア
次に米国の主要大学LLMの最低要求スコアを見てみます。TOEFLについては、本記事執筆時点で旧形式の点数にしか言及がないものについてはそちらを記載しています。
※2026年5月現在。TOEFLの形式変更直後であり、今後調整がなされる可能性が高いので各自で確認されたし。
| TOEFL | IELTS | |
|---|---|---|
| Harvard | (旧形式)Ovarall 100 かつ各セクション25 | 使用不可 |
| Stanford | (旧形式)Overall 100 | 使用不可 |
| Columbia | Overall 5.5 かつ各セクション5 | Overall 8 |
| Chicago | Overall 5 | Overall 7.5 かつ各セクション7 |
| NYU | (旧形式) Listening and Reading: 26/30 Speaking and Writing: 22/30 | Listening and Reading: 7.5/9.0 Speaking and Writing: 7.0/9.0 |
| UC Berkeley | (旧形式)Overall 100 | Overall 7 |
| Pennsylvania | Overall 5 かつ各セクション5 | Overall 7 かつ各セクション7 |
| Duke | (旧形式)Overall 100 | Overall 7 |
注目点は以下の2つです。
- HarvardとStanfordは、IELTSを受け入れていない
- ColumbiaはTOEFLについてのみ各セクションの最低点を設け、逆にChicagoはTOEFLについてのみ各セクションの最低点を設けている
まず、①から、HarvardかStanfordを受験する人はTOEFLを受けざるを得ない、ということになります。IELTSしか受けない奴はイギリスで紅茶でも飲んでろ、ということですね、わかります。
次に、②からColumbiaを目指す人はIELTS、Chicagoを目指す人はTOEFLを受験するのが良いということが言えます。
日本で非実用的な英語教育を受けてきた人にとって、TOEFL/IELTSでの最も高い壁はおそらく、
WritingとSpeakingの各セクションで、5 (TOEFL)/ 7 (IELTS) を取ること
です。
つまり、ReadingとListeningで底上げできるOverallの得点とは別に、各セクションでの「5 (TOEFL)/ 7 (IELTS)」をも要求しているColumbiaのTOEFLとChicagoのIETLSは、かなり厳しい基準です。したがって、Columbiaを目指す人はIELTS、Chicagoを目指す人はTOEFLを受験するのが良いと思います。
(なお、両校がなぜ片方の試験にのみ、各セクションの最低点を設けているのかは不明です。正直ナンセンスだと思います。)
なぜ一般的にはIELTSの方がよいのか
では、HarvardかStanfordを受験校に入れておらず、かつChicagoが第一志望でもない人にとっては、IELTSの方が良いと思うのか。それは以下の3つの理由からです。
- IELTSの方が安い
- TOEFLのSpeakingの特殊性
- 英国LLMを受験するときにIETLSの方が有利
以下それぞれ説明します。
① IELTSの方が安い
TOEFLの受験料は$195、IELTSの受験料は¥27,500です。
単純計算で、1ドルが141円を下回る円高相場にならない限り、IELTSの方がお得です。2026年5月現在の相場(1ドル160円)でいえば、TOEFLの受験料は¥31200なので、一回毎に¥3700の差がつく(クレジットカードの外貨決済手数料を考えるともっと差がつく)ことになります。
しかも、TOEFLは申込日から7日間以内で受験をしようとすると、Late Registration Feeとして追加で$40かかります。出願期限が迫っている状況下で、追加料金を支払わないと1週間後以降しか予約できないのはかなり不便です(普通は、採点が帰ってきて、それが目標に届いていないことが判明した時点で次の受験予約をしたいと思うわけですが、出願期限が迫ってくるとそうチンタラもしていられなくなります)。
この金額差は、財布もそうですが、より精神に響くものがあります。不必要にTOEFLを選んだ人は、目標スコアに届かず追加の試験申し込みをするたびに、「また焼肉一回分か…」と天を仰ぐことになります。
② TOEFLのSpeakingの特殊性
まず大前提として、 TOEFLのSpeakingセクションでは、PCが読み上げる問題文を聞き取った上で、PCに向かって一人で声をマイクに吹き込むことになります。そしてTOEFLの試験会場では多くの人が同時に受験をしています。
この結果、周りの受験者の声で気が散るうえに、そのせいで問題文を聞き損ねても救済措置がない、というストレスフルな状況に陥ります。僕は忘れません、突然のバカデカ声で周囲を威圧する輩や、ネイティブような発音で周りを見下すインテリがたむろするお茶の水ソラシティの受験室を…
一方でIELTSのSpeakingは、試験官と2人きりの個室での対面試験となります。周囲のせいで気が散るということもありませんし、質問が聞き取れなくても”Excuse me?”と聞き返すことができます(そして1、2回聞き返す程度では点数はほとんど変わりません)。
また、TOEFLのSpeakingセクション前半の、”Listen and Repeat”というパートが、かなりクセありです。端的に言えば、「音声の文章を一度だけ聞き、それをそのまま正確に復唱する」という試験で、こういうと簡単じゃん?と思う人も多いと思うのですが、結構難しいです。ETSの公式サイトで無料のPractice Testができるので、経験したことがない人は一度トライしてみるといいと思います。
③ 英国LLMを受験するときにIETLSの方が有利なことがある
そもそもOxfordは、新形式のTOEFLを現状(2026年5月時点)受け入れないことを発表しており、またCambridgeやLSEでは、新形式を受け入れるかは現状不明なものの、旧形式でいえばTOEFLの要求基準がIELTSよりも高い(Cambridgeは各セクション25、LSEはOverall 109)ため、IELTSの方が有利です。
TOEFLの方がよい要素
逆に、TOEFLの方がよいなと思うのは、WritingがIELTSに比べて少しだけ簡単(取っ付きやすいし、点数も出やすい)なことです。これを踏まえると、Speakingは得意だけどWritingは苦手という人は、TOEFLの方がよいという可能性もあるかもしません。
Writingの前半パート
TOEFLのWritingの前半パートは、英文メールのドラフトです。仕事で英文メールを書き慣れている人は、ほとんどトレーニングをせずに取り組めると思いますし、書き慣れていない人でも、英文メールの典型・形式的な表現を覚えることにさして時間はかからないはずです。
一方で、IELTSのWriting前半パートは、図表の説明問題です。覚えるべき言い回しが若干特殊(例えばグラフの説明問題であれば、「Aの割合は2000年頃までに15%から20%までわずかに上昇し、さらに2010年には40%という過去最高値まで急増して、他のすべての区分を上回った。」のような感じ)なので、準備に少し手間がかかります。
Writingの後半パート
後半パートもIELTSよりはTOEFLの方が比較的書きやすいと思います。IELTSは、「AとBどちらがよいか」という短い問題文しか与えられないのに対し、TOEFLではA説とB説のそれぞれを支持する人の意見が問題文の一部で紹介されるので、その意見をそのままパクることが可能だからです。
ただ、TOEFLでも高得点を獲得しようとすれば、問題文に書いてある他の人の意見をそのままパクるわけにはいかないので、結局両者の後半パートの難易度にはそこまでの差はありません。むしろ、人によっては、典型的な立場が問題文に記載されていないIELTSの方が、自由度が高くて(立場をパクらないように気を付ける必要がなくて)楽という意見もありうるかもしれません。
まとめ
以上のとおりの理由から、TOEFLとIELTSでどちらかを選択しなければならないのであれば、個人的には以下が最終解だと思っています。
(1) HarvardかStanfordを受験校に入れる人、または(2) Chicagoが第一志望の人は、TOEFL。
(3) それ以外の人は、おとなしくIELTS!
…といいつつも、時間とお金がある人は、一回どちらも受けてみて自分にはどちらが合っているのかを体感してみるべきです。あるいは両方受けてしまうのももちろんアリ。
もし時間とお金のどちらかがないのであれば、上記を参考にしてみてください。
